正すべき認識
「上がりそう」「ここで買いたい」は、すべて外生的な価格 P への言及であり、 自分に決定権のない変数への願望にすぎない。我々が実際に選べるのは建玉 q(t)(符号・大きさ・タイミング・保有期間)ただ一つ。損益は会計恒等式
で決まり、あらゆる分析は「P の記述」にすぎず、q の選択を変えて初めて価値を持つ。 儲けは価格の動き そのものではなく、その瞬間の建玉 との積でしか発生しない。
公理系の系譜図
系の一覧(導出鎖つき)
Kelly 基準
優先度 ★★★符号・タイミングを固定し、建玉の大きさ f(資本比率)だけを選ぶとき、長期成長率を最大化する f* は「エッジ÷オッズ」に一意に定まる。
平均分散最適化(Markowitz / 接点ポートフォリオ)
優先度 ★★★N 銘柄への建玉配分ベクトル w を選ぶとき、分散1単位あたり超過リターンを最大化する配分は w* ∝ Σ⁻¹(μ−rf·1) に一意に定まる。
最適停止(Optimal Stopping / Snell 包絡)
優先度 ★★★建玉を持ったまま、いつ手仕舞うか(停止時刻 τ)だけを選ぶとき、最適な手仕舞いは「即時価値 ≥ 継続価値」となる最初の時刻に一意に定まる。
平均回帰トレード(OU 過程 / 逆張り)
優先度 ★★価格が平均回帰するとき、次の一手の期待は現在価格から予測できる。エッジ Cov(q,dP) を最大化する建玉は「平均からの乖離の逆符号」に比例する。
ボラティリティ・ターゲティング(GARCH による建玉スケール)
優先度 ★★★条件付きボラ σ_t が時変で予測できるとき、リスク一定を保つ建玉は σ_t の逆数に比例する。
VaR / CVaR による建玉上限
優先度 ★★★損失分布のテールから、破産確率を α 以下に抑える建玉サイズの上限が一意に決まる。
最小分散ヘッジ比率(ベータ・ヘッジ)
優先度 ★★保有銘柄に第二の建玉(指数の売り)を重ねて系統リスクを消すとき、分散を最小化するヘッジ量は −β(=−Cov/σ²_M)に一意に定まる。
最適保有期間(Optimal Holding Horizon)
優先度 ★★保有期間 h は自由に選べる決定変数。リスク調整後リターンを最大化する h* は、分散比(自己相関構造)と償却コストの釣り合いで一意に決まる。
カレンダー/曜日エッジ(条件付きドリフトのタイミング)
優先度 ★★ドリフトが暦状態(曜日・月内位置)に依存するとき、状態別の条件付き Kelly が「いつ建て、いつ休むか」を決める。エッジのない状態では q=0 が最適。
取引コスト下の最適リバランス(無取引帯)
優先度 ★比例取引コストがあると、目標建玉 q* への連続追随は最適でない。最適方策は q* を囲む「無取引帯」で、帯を出たら境界まで戻すだけ。
ドローダウン制御(CPPI 型の建玉縮退)
優先度 ★★最大ドローダウンを D_max 以内に抑えるには、資産がピークから下げるほど建玉を比例的に縮める。露出はクッション(資産−床)に比例する。
条件付き期待リターン → 状態依存戦略 Φ(総合系)
優先度 ★★★あらゆる分析は状態 S から条件付き μ(S)/σ²(S) を推定する営みであり、戦略 Φ とは建玉を q(S)=μ(S)/(λσ²(S)) に写す関数そのものである。C1・C4・C5・C9 はその特例。
最適執行(Almgren–Chriss)
優先度 ★大きな建玉変更 ΔQ を一度に行うと市場インパクトで損する。最適な執行は「インパクト(速く動かす罰)とタイミングリスク(遅く動かす罰)」を釣り合わせたsinh 型の建玉経路に一意に定まる。
確率的最適制御(HJB / Merton 問題)
優先度 ★★連続時間で効用 E[U(W_T)] を最大化する建玉比率は、HJB 方程式の一階条件からMerton 比率 π*=(μ−r)/(γσ²) に定まる。C1(Kelly)は γ=1(対数効用)の特例。
リスク制約 Kelly(破産・ドローダウン制約付き成長)
優先度 ★★破産確率やドローダウンに上限を課すと、成長最大の建玉は full-Kelly より必ず小さくなる。これが fractional Kelly の厳密な根拠であり、C1 と C11 を結ぶ。
ロバスト最適化(パラメータ不確実性下の min-max 建玉)
優先度 ★★μ・σ は推定にすぎず誤差を持つ。最悪ケースに備える建玉は、エッジをその標準誤差ぶんだけ割り引いた「信頼下限 Kelly」に一意に定まる。
レジーム切替下の戦略 Φ(HMM/BOCPD 信念加重)
優先度 ★★相場が隠れレジームを切り替えるとき、最適建玉はレジーム別 Kelly の信念加重平均を「レジーム間分散」で割ったもの。レジームが曖昧な遷移期には建玉が自動的に縮む。
多資産・多期間の動的配分(Merton 異時点ヘッジ需要)
優先度 ★★投資機会が時変するとき、多期間の最適配分は各期の平均分散配分(C2)に、将来の機会悪化に備える「異時点ヘッジ需要」を加えたものになる。
情報の価値(相互情報量 → 成長率の上界)
優先度 ★★どんなシグナルも、建玉の長期成長率を高められる量は、そのシグナルと将来リターンの相互情報量 I(Y;r) を超えられない。エッジには情報理論的な天井がある。
分散投資の限界(相関と実効独立ベット数 N_eff)
優先度 ★★建玉を多資産に分けてもリスクはゼロにならない。平均相関 ρ̄ が下限を作り、実際に効いている独立ベット数は N_eff=1/ρ̄ 程度に頭打ちする。
時間分散 vs 時間集中(非エルゴード性・成長の非可換性)
優先度 ★★★富は掛け算で育ち、我々はただ一本の建玉経路を生きる。ゆえに従うべきはアンサンブル平均 E[W] ではなく時間平均成長率 g=E[log(1+f·r)]。期待値が正でも時間平均が負なら、ほぼ全ての経路は破綻へ向かう。
レバレッジの最適点と破産(信用取引の k* 探索・追証)
優先度 ★★建玉倍率 k を上げると期待は線形に伸びるが、分散ドラッグは二乗で効き、成長率 g(k) は k* で頭打ちになる。さらに公理5(追証・破産の吸収壁)が k に厳しい上限を課し、成長最適レバより手前で建玉を切らざるを得ない。
課税・非課税の建玉価値(実現益課税の複利ドラッグ)
優先度 ★★実現益への課税 τ は損益から引く一度きりの控除ではなく、乗法的に育つ富の基盤を実現のたびに (1−τ) 倍へ削るドラッグ。ゆえに非課税で持ち切る建玉(NISA)は、同じグロスなら課税・高回転の建玉より必ず時間平均成長率が高い。
参加の価値(株式リスクプレミアムという床)
優先度 ★★★建玉 q は本来ベクトル q_i(対象=どの資産に建てるか、が符号・大きさ・タイミング・期間に先立つ第5の自由)。単一資産内でエッジ Cov(q,dP)≈0 が示された今、損益は「どの資産に平均どれだけ居るか × その資産の平均ドリフト」の項だけに畳まれ、構造的に最大の床=株式リスクプレミアムに退場せず参加し続けることが最適になる。
対象選択による床の底上げ(横断ドリフト・チルト)
優先度 ★★C24 の床(市場参加)を前提に、観測可能な特性 X で対象をチルトして床を底上げできるか。だが個別ドリフトの推定誤差 SE=σ/√T は巨大で、過去実績が最大の銘柄を選ぶのは生存者バイアス。単位を特性ソート・ポートフォリオにして idiosyncratic を分散し、前向き検証+FDR+誤差割引(C16)を生き残ったチルトだけが実効的。大半のチルトは床を超えない、が誠実な既定結果。
個別ドリフトの識別限界(μ の推定不可能性と勝者の呪い)
優先度 ★★★個別銘柄の期待ドリフト μ は、価格系列からは実用的な精度で同定できない。SE(μ̂)=σ/√T は観測頻度を上げても縮まず(μ̂ は両端2点の恒等式)、情報は期間の長さからしか来ない。σ=30%・Δμ=5pp・κ=2 なら必要期間は約144年。さらに N 銘柄から最大を選ぶだけでE[μ̂_max−μ̄]≈SE·√(2 ln N) の見かけ上の上振れが生じる(勝者の呪い=生存者バイアスの中核)。ゆえに『ドリフトの高い銘柄を当てる』は q の選択規則として実行不能であり、C24(床への参加)と C25(特性ソート・ポートフォリオ)は選好ではなく識別限界からの強制。
停止規則の中立性(TP/SL バリアは期待値を動かさない)
優先度 ★★利確・損切りのバリアを σ 単位で置く(TP=+Aσ√H / SL=−Bσ√H)と、到達確率は (A,B,S) だけの関数になり σ が消える。期待損益は E[X_τ]=μ·E[τ]=μ·AB·H で「期待滞在時間」経由でしか動かず、暦時間あたりのシャープ μ√T/σ は A,B に不変。動かせるのは勝率 B/(A+B)・歪度 (A−B)/√(AB)・回転率だけ。さらに摩擦を入れると期待値は AB について単調増加になり、期待値基準の最適バリアは常に「外す(持ち切り)」に張り付く。ゆえに格子探索が内点に最適解を返すことは、経路依存性の存在か推定ノイズのどちらかを意味する。
セクター内選別(ファクター感応度の識別可能性)
優先度 ★★★特定セクターに集中する投資家にとって、期待リターンの銘柄間差はファクター感応度 b_i にしか宿らない(α_i は C26 により測定不能)。そして b は μ と違い測れる: SE(b̂)=σ_ε/(σ_F√T) は観測頻度とともに縮む。最大シャープの銘柄順位は S_i=b_i/σ_ε,i に一致し、ここに投資家の見立ての強さ m=E[F] は現れない(必要なのは m>0 の符号だけ)。最適配分は1ファクター模型下で w_i∝b_i/σ_ε,i² に閉じ、ファクター露出を保ったまま固有分散だけを分散できる。ゆえに正しい建玉は「一点集中」ではなく「セクターに集中し、セクター内では分散する」。ただし選別はエッジの増幅器であって創出ではない。
出典: docs/investment-axioms.md / データ源: app/lib/axioms/corollaries.ts