リスク分析

GARCH VaRとは?明日の最大損失を予測しバックテストで検証する

GARCH(1,1)で条件付きボラティリティを推定し、正規分位点からVaRを算出する手順、Kupiecテストによる超過回数の検定、ファットテールによる限界を解説します。

GARCH VaRValue at RiskKupiecテストバックテスト条件付きボラティリティ

この分析で分かること

「明日、最悪どれくらい損するか」を日々更新して予測します。株価のボラティリティは一定ではなく、荒れた日の翌日は荒れやすいという性質があります。GARCHでその日ごとのボラティリティを推定し、そこから損失の境界線を引きます。さらに、その境界が実際に破られた回数が理論通りかをKupiecテストで検証します。

分析方法

  1. 日次リターンからGARCH(1,1)のパラメータω、α、βを推定します。
  2. 各日について、前日のショックと前日の分散から当日の条件付き分散を更新します。
  3. 条件付き標準偏差に正規分布の分位点(95%なら−1.645、99%なら−2.326)を掛けてVaR線を引きます。
  4. 実際のリターンがVaR線を下回った日を限界超過として数えます。
  5. 超過回数が想定通りかをKupiecの尤度比検定で判定します。

数式と変数

GARCH(1,1)の分散方程式

σt2=ω+αrt12+βσt12\sigma_t^2=\omega+\alpha r_{t-1}^2+\beta\sigma_{t-1}^2

ωは長期水準、αは直近ショックへの反応、βは分散の持続性です。α+β<1のとき、ボラティリティはいずれ平常水準へ戻ります(定常条件)。

長期分散

σˉ2=ω1αβ\bar\sigma^2=\frac{\omega}{1-\alpha-\beta}

定常条件を満たす場合に収束する水準です。α+βが1に近いほど、この水準へ戻るまでの時間が長くなります。

正規分布仮定によるVaR

VaRα,t=zασt,z0.95=1.645,  z0.99=2.326VaR_{\alpha,t}=z_{\alpha}\,\sigma_t,\qquad z_{0.95}=-1.645,\;z_{0.99}=-2.326

標準化ショックが正規分布に従うという仮定を置いています。実際のリターンは裾が厚いため、この仮定は楽観側に外れがちです。

Kupiecの無条件被覆検定

LRuc=2ln[(1p)mxpx(1p^)mxp^x]    χ2(1),p^=xmLR_{uc}=-2\ln\left[\frac{(1-p)^{m-x}p^{x}}{(1-\hat p)^{m-x}\hat p^{x}}\right]\;\sim\;\chi^2(1),\qquad \hat p=\frac{x}{m}

pは想定超過率(5%なら0.05)、xは実際の超過回数、mは観測数です。超過が多すぎても少なすぎても棄却されます。

用語の定義

VaR
一定の確率で下回らない損失の境界です。95% VaR=−2%なら、100日のうち約5日はこれ以上の損失が起こり得ます。
条件付きボラティリティ
直近の状況を加味して推定した「今日の」ボラティリティです。日々変動します。
限界超過(違反)
実際のリターンがVaR線を下回った日です。
Kupiecテスト
超過回数が想定確率と整合するかを検定する手法です。多すぎても少なすぎても不合格になります。
ファットテール
極端な値動きが正規分布より頻繁に起こる性質です。VaRの過小評価の主因です。

直感的な例

天気予報の降水確率に例えます。「降水確率5%」の日に毎回傘を持たない人は、100日のうち約5日濡れます。それが想定通りなら予報は正しく機能しています。VaRのバックテストも同じで、95% VaRなら約5%の日で超過するのが正常です。超過が0回でも合格ではありません。リスクを過大に見積もり、必要以上にポジションを絞っていたことになるからです。

結果の読み方

  • VaR線が下に広がっている時期は、モデルがリスクが大きいと判断している期間です。
  • 赤い超過点が特定の時期に固まっている場合、ボラティリティの急変にモデルが追いつけていません。
  • バックテスト不合格(超過が多い)はVaRの過小評価で、ファットテールの存在を示唆します。
  • バックテスト不合格(超過が少ない)は過度に保守的な状態で、投資機会を逃している可能性があります。
  • Kupiecテストは超過の「回数」だけを見ます。超過が連続して起きたかどうかは別の検定(Christoffersen)が必要です。

投資への活用

  • VaRが拡大している局面で、許容損失額に合わせてポジションを縮小します。
  • 99% VaR水準を参考に、通常の変動では引っかからないストップロス幅を設計します。
  • ボラティリティ上昇局面では新規エントリーを控え、ヘッジ強化を検討します。
  • バックテスト不合格のときは、VaRの数値を額面通りに信じず保守側に倒します。

限界と注意点

  • 正規分布を仮定しているため、実際のファットテールに対してVaRが過小になりがちです。
  • 構造変化や未曾有のショックには、過去データに基づくモデルの対応が遅れます。
  • VaRは境界であって最大損失ではありません。超えた場合の大きさはCVaR/ESが必要です。
  • Kupiecテストは超過回数のみを検定し、超過の時間的な固まり(クラスタリング)は評価しません。
  • 単一銘柄の分析です。ポートフォリオ全体のリスクには銘柄間相関を含む別の計算が要ります。

実際の株価データで確認する

トヨタ自動車を例に、該当パネルを開きます。移動後に銘柄・期間・入力系列を変更できます。

GARCH VaR予測を実データで見る

本ページは分析手法の理解を目的とした情報提供です。将来の価格や利益を保証するものではなく、 特定銘柄の売買を推奨するものではありません。