基本分析

株価の構造スコアカードとは?8指標で銘柄の性格を1枚に要約する

年率リターン・ボラティリティ・Jarque-Bera・ACF(1)・ボラクラスタリング・Hurst指数・最大ドローダウン・シャープレシオの8指標で、銘柄の統計的な性格を一覧化する方法を解説します。

スコアカード年率ボラティリティシャープレシオJarque-BeraHurst指数

この分析で分かること

構造スコアカードは、この銘柄が「どういう性格の時系列か」を8つの統計量で一度に示します。トレンドの向き、荒さ、分布の形、方向の予測しやすさ、変動の固まりやすさ、長期記憶、下落の深さ、リスク当たり効率です。個々の分析へ進む前の入口として、どのセクションを見るべきかを決めるために使います。

分析方法

  1. 終値から日次対数リターンを作ります。30営業日未満のデータでは何も計算しません。
  2. 平均と標準偏差を252倍・√252倍して年率のリターンとボラティリティにします。
  3. 標準化した3次・4次モーメントからJarque-Bera統計量を求め、χ²(2)の5%臨界値5.99と比べます。
  4. リターンと二乗リターンそれぞれの1次自己相関を計算し、±1.96/√nの帯と比較します。
  5. R/S法でHurst指数を推定し、累積対数リターンの高値からの落ち込みで最大ドローダウンを求めます。
  6. 各指標を固定の基準値で−1〜+1へ正規化し、中央を0としたバーで並べます。

数式と変数

年率リターンと年率ボラティリティ

μann=rˉ×252,σann=sr252\mu_{ann}=\bar r\times 252,\qquad \sigma_{ann}=s_r\sqrt{252}

r_tは日次対数リターンです。s_rは分母nの母標準偏差を使っています。対数のまま252倍しているため、複利換算した実際の年率成長とは一致しません。

Jarque-Bera統計量

JB=n6(S2+K24)    χ2(2)JB=\frac{n}{6}\left(S^2+\frac{K^2}{4}\right)\;\sim\;\chi^2(2)

Sは歪度、Kは超過尖度(正規分布で0になるよう3を引いたもの)です。JB>5.99で有意水準5%の正規性が棄却されます。

1次自己相関と有意性の目安

ρ1=t(rtrˉ)(rt+1rˉ)nσ^2,ρ1>1.96n\rho_1=\frac{\sum_{t}(r_t-\bar r)(r_{t+1}-\bar r)}{n\,\hat\sigma^2},\qquad |\rho_1|>\frac{1.96}{\sqrt n}

同じ式を二乗リターンにも適用し、ボラティリティクラスタリング(ARCH効果)を検出します。帯は独立性を仮定した概算です。

R/S法によるHurst指数

E ⁣[R(n)S(n)]nH    logRS=Hlogn+c\mathbb{E}\!\left[\frac{R(n)}{S(n)}\right]\propto n^{H}\;\Longleftrightarrow\;\log\frac{R}{S}=H\log n+c

R(n)は長さnのブロック内の累積偏差のレンジ、S(n)はその標準偏差です。本実装はブロック長10・20・40・80・160のうち系列長の半分以下のものを使います。

最大ドローダウンとシャープレシオ

MDD=maxt(maxstCsCt),SR=rˉsr252MDD=\max_t\left(\max_{s\le t}C_s-C_t\right),\qquad SR=\frac{\bar r}{s_r}\sqrt{252}

C_tは累積対数リターンです。対数空間での落ち込み幅なので、価格ベースの下落率より僅かに大きく出ます。SRは無リスク金利を0としています。

用語の定義

歪度
分布の左右の非対称性です。負なら大きな下落側の裾が長いことを意味します。
超過尖度
正規分布を0とした裾の厚さです。正の値は極端な値が正規分布より起こりやすいことを示します。
効率的市場
過去の価格から将来の方向を予測できない状態です。ここではACF(1)が有意でないことを目安にしています。
ボラティリティ・クラスタリング
荒い日の翌日は荒く、静かな日の翌日は静かになりやすい性質です。二乗リターンの自己相関で測ります。
長期記憶
遠い過去の影響が長く残る性質です。Hurst指数が0.5より大きい領域で示唆されます。

直感的な例

年率ボラティリティ38%・JB棄却・ACF(1)が非有意・ACF(r²)=0.25・H=0.55という並びを考えます。方向は読めない(効率的)が、荒さは持続し、裾は正規分布より厚い、という読み方になります。この場合に伸ばすべきはトレンド予測ではなく、ボラティリティ節とテイルリスク節です。スコアカードは答えではなく、次にどの分析を開くかの案内板として機能します。

結果の読み方

  • バーの長さは固定の基準値による正規化であり、統計的な有意性の強さではありません。
  • ACF(1)が非有意でもACF(r²)が大きいなら、方向ではなく変動量に構造があります。
  • JBの棄却はほぼ常に起こります。棄却の有無より、歪度と尖度の大きさを見てください。
  • Hurstが0.4〜0.6ならランダムウォークと区別できないと考えるのが安全です。
  • 8指標は独立ではありません。高ボラは最大ドローダウンとシャープレシオの両方を同時に動かします。

投資への活用

  • 次に開くべき分析セクションを決める入口として使います。
  • 年率ボラティリティと最大ドローダウンから、許容損失に見合うポジション量の上限を逆算します。
  • 複数銘柄で並べ、性格の違う銘柄(低相関の候補)を選ぶ材料にします。
  • 期間を変えて再計算し、指標が期間に対して安定かどうかを確かめます。

限界と注意点

  • 正規化の基準値(リターン0.3・ボラ0.5・ドローダウン0.5・シャープ2)は固定の慣習値で、銘柄や市場に合わせて調整されていません。
  • 全期間の単一値であり、構造変化があれば異なる局面の平均を見ていることになります。
  • Hurst指数は簡易R/S法による推定で、ブロック長の選択に敏感です。専用のフラクタル節の推定と一致しない場合があります。
  • 最大ドローダウンは対数空間で計算しているため、リスク節のドローダウン分析の数値と厳密には一致しません。
  • シャープレシオは無リスク金利を0としています。金利水準が高い局面では過大評価になります。

実際の株価データで確認する

トヨタ自動車を例に、該当パネルを開きます。移動後に銘柄・期間・入力系列を変更できます。

構造スコアカードを実データで見る

本ページは分析手法の理解を目的とした情報提供です。将来の価格や利益を保証するものではなく、 特定銘柄の売買を推奨するものではありません。